第12章 密か【イケメン幕末】
「酔っておられるのですか?」
近藤殿がこれ程に酒を呑むなど珍しい事もあるものだ。
私がその大きな身体を支えると、近藤殿は上機嫌の様だった。
「ああ、酔っているぞ。
聞いてくれ、隼多。
俺ととしが幕臣に引き上げられる事になった。
これが酔わずにいられるか……なあ?」
幕臣に……。
それは大出世だ。
祝い酒を呑まれた……という事なのだろう。
からからと笑い続けていた近藤殿は、突然真剣な視線を私に向けて声を絞り出す。
「まさか農家出身の俺が幕臣とはな……。
これで御武家出身の隼多にも引けを取らんぞ。」
………近藤殿はそんな風に思われていたのか。
出自など己の力ではどうにもならない。
だから人の価値はこれ迄の生き様で決まるのだと私は考えていたが、それは恵まれた環境に生まれ育った私の高慢だったのか?
私の様な小さな人間は、やはり近藤殿には釣り合わないのかもしれない。
鬱いで仕舞う気持ちを押し留めて
「兎に角、部屋へお戻りになった方が……」
そう言って歩き出すと、私が床に置いたままにしていた木刀に近藤殿が蹴躓いた。
「あっ……」
瞬間、近藤殿の身体を支えていた私ごと二人で倒れ込み、近藤殿が私に覆い被さる体勢になって仕舞う。