第12章 密か【イケメン幕末】
それから暫くは何事も無く日々は過ぎて行った。
沖田殿もあれ以来、特に何も言わず毎日私の稽古に付き合ってくれている。
素性を知られているという居心地の悪さと、それを黙して貰っている申し訳無さと……
妙な心持ちを抱えたまま、それでも私は毎日屯所に通っていた。
当然、近藤殿とも顔を合わせる機会がある。
その度に近藤殿は穏やかな笑顔で私に声を掛けて下さった。
そうなれば駄目だと思いつつも、近藤殿への想いは益々募っていく。
そんな自分自身の脆さを払拭すべく、私は一人で稽古場に残り無心で木刀を降り続け、ふと気付けば随分と辺りは薄暗くなっていた。
「そろそろお暇しなければ………」
一つ息を吐き帰り支度を始めた時、稽古場の入口でがたんと音がする。
「………隼多か?」
聞こえて来たのは近藤殿の声。
「うむ、感心感心。
日々の鍛練は大事だからな。」
そう言って稽古場に入って来た近藤殿の足元はふらついており、
「近藤殿!」
私が慌てて近付くと、ぷんと酒の匂いがした。