第12章 密か【イケメン幕末】
そう、私は女だ。
隼多というのは兄の名で、本当の名はという。
子供の頃から随分とお転婆で、女が好むような遊びや芸事にはまるで興味が無かった。
何時も兄に着いて回り、剣術の稽古に明け暮れていた。
父も母も人の好い呑気者であった為、特にそれを咎められる事も無かった。
そんなある時、京の市中で新撰組の戦い振りを目にして私の胸は踊った。
彼等の様に強く在りたいと、己にも何か出来る事が有るのではないか……と。
そして私は男の成りをして新撰組入隊を志願したのだ。
まだ年若く身体も小さい、先ずは稽古に出向いて来てはどうか、
入隊は稽古を続けてみてから……と局長である近藤殿からの御助言を戴いた。
それが二年程前の事になる。
それから毎日の様に屯所へ通い詰めた。
でも女であるが故、どうしても月の物が訪れてしまう。
その際には実家の所用であるとか、体調の不良だとかで誤魔化して稽古を休まなければならなかった。
実際につい昨日まで、その所為で稽古を休んでいたのだ。
そろそろ限界なのだろうか。
あの近藤殿にすら『毎月数日に渡って休む』と気付かれて仕舞っているならば、他の隊士の目を誤魔化すのはもう難しいのかもしれない。
正直、女と露見して仕舞う事は既にそれ程怖れていない。
強く在りたいと新撰組に関わったのは本当だ。
でも今の私が抱えている想いは………
『近藤殿のお側に居たい』
只、それだけ。
女として近藤殿をお慕いしてしまった。
ならば女であると露見した所で問題は無いだろう。
でも私は近藤殿を謀った。
男である、女である……それ以前に真っ直ぐな近藤殿を謀って仕舞った事が露見するのが怖いのだ。
近藤殿のお側に居られなくなる事が、今の私には何よりも怖い。