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孤独を君の所為にする【歴史物短編集】

第2章 徒桜【るろうに剣心】


「………俺に近付いたのも…この企ての為か?」

任務に私情を挟む事など絶対に許されない……そんな事は百も承知である筈なのに、俺は問わずには居られなかった。

一瞬だけ翠の瞳に絶望の色が過ったように見えたが、既に冷静さを欠いている俺にはそれを見咎める事が出来なかった。

「さあ……どうでしょう?」

翠のふざけた答えに、俺の苛立ちが沸点に達する。

いや、翠に対してだけじゃない。

何時もならどんな状況にも沈着冷静に対応し心を乱す事など有り得なかった自分が、たった一人の女に翻弄されている………

それが許せない。

こんな自分自身が許せない。


俺は翠の手首を掴み立ち上がらせると、夜伽の為に用意された布団へその身体を放り出した。

どさりと倒れ込んだ翠は哀し気な目をして俺を見上げている。

「お前の処遇は俺に一任されている。
 だからお前をどうしようと俺の自由…という事だ。」

「蒼紫様………?」


「脱げ。」


「……………。」

「どの道、愛してもいない男に抱かれる覚悟で此処へ来たのだろう?
 ならば俺にも身体を拡げて、赦しを乞うてみろ。」

自分が何を言って、何をしようとしているのか……自分でも信じられない。

この俺が翠を手籠めにしようとしている。

この俺が……?


俺に会う時は何時もきっちりと結われていた髪は下ろされ、豊かで艶やかな黒髪が流れるように拡がっている。

薄く化粧を施された肌は一層きめ細やかさを強調し、僅かに乱れた純白の襦袢の裾からはその生地に負けない程の白い脚が覗いていた。

この装いは俺以外の男の為に拵えた物なのだ。

そう思った時、俺の中から沸き上がる嫉妬、執着、壟断……

どす黒い感情がどうしても抑え切れ無かった。

「どうした?
 自分で脱がないのならば、俺が剥ぎ取るだけだぞ。
 天下人の褥で罪人を抱くというのは……
 酷く唆るものだな。」

態とらしく口角を上げて言った俺の言葉に翠の表情が大きく歪む。

だがそこに浮かんでいたのは軽蔑や嫌悪では無く、哀憫であるように見えた。
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