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孤独を君の所為にする【歴史物短編集】

第2章 徒桜【るろうに剣心】


それから俺と翠は頻繁に会うようになった。

会うと言っても翠が父親に同行した際に、この中奥の桜の木の下で僅かな時間語り合うだけだったが。

だがその時間を何よりも楽しみにしている自分が居た。

隠密としての過酷な任務も、無事に江戸城に戻ればまた翠に会える…その想いを支えに熟していった。

自分でも誤魔化しようが無い程に翠に惹かれているのは分かっている。

恐らく翠も俺を想ってくれているだろう事も。

しかし隠密御庭番衆の御頭を継いだばかりの俺が、恋だの愛だのに現を抜かしている場合では無い事も痛い程に理解していた。


そのような状態のまま時は過ぎ、翠と出会ってから二度目の春を迎えようとした矢先のある日……


「大奥に上がる事になりました。」


翠の口から告げられた言葉に俺は固まった。

大奥に上がってしまえば、もう二度と会う事は出来ない。

それは事実上の別れを意味している。

「………そうか。」

俺はそのただ一言を口にするのが精一杯だった。

翠を拐って逃げる……そんな考えが一瞬だけ頭を過ったが、絶対君主である慶喜公に捧げられる女を奪う事など出来る筈が無かった。

二人共暫く無言で立ち尽くしていたが、何も言葉を発しない俺に翠は諦めたような笑顔を見せる。
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