第9章 朧月【イケメン戦国】
「ねえ……政宗。」
俺を呼ぶの声。
の口から紡がれる俺の名を聞いたのは何時以来だろう。
たかがそれだけの一言が信じられない程に俺の鼓動を逸らせた。
今は俺の膝の上で身体を丸めている。
を閉じ込めている座敷牢へ来たものの、今夜はどうしてもそんな気には成らず俺は只を抱き締め続けた。
俺が吐いた嘘……
『信長様はお前の事など忘れている』
それを聞いた日からは変わった。
いや…変わったと言うよりは、元に戻りつつあると言った方が正しいかもしれない。
「政宗は私の事が好きなの?」
俺の胸に額を当てたままが問う。
「愚問だな。
そうでなきゃこんな風にお前を拐ったりするもんか。」
暫くの沈黙の後、の小さな手が俺の襟元を掴んだ。
その手は小刻みに震えている。
「信長様は……私の事なんか好きじゃなかったのかな。
私だけが信長様を想っていて……
信長様が私を抱いたのも只の気紛れだったのかな。」
俺が吐いた嘘にが揺らいでいる……本来なら罪悪感に苛まれるべきだろう。
だが今の俺は自分の穢さを呪うよりも、たった一つの結果を心底望んでしまっていた。
…俺に堕ちろ。
俺に堕ちて、俺の事だけを想ってくれ。
「もう……疲れちゃった。
信長様を想い続ける事に疲れたの。
……だから私を好きでいてくれる人と一緒に居たい。」
「………」
どくどくと高鳴る自分の心臓が痛い。
の顎に手を掛け上向かせると、その目は真っ直ぐに俺を見つめていた。
「政宗………ずっと側に居てくれる?」
堕ちた。
が堕ちた。