第9章 朧月【イケメン戦国】
「何か食いたい物は無いのか?
お前の為ならどんな物でも用意してやる。
何か欲しい物は……」
「信長様……」
「何だ?」
「信長様が欲しい。」
視線を虚ろわせたままが呟き、俺の胸がぎりぎりと締め付けられる。
後悔や罪悪感じゃねえ。
敢えて例えるならば憤怒だろうか。
何故俺に情が移らないのか、何故それ程迄に信長様に固執するのか……
何故俺じゃ駄目なんだ?
「信長様はもうお前の事など忘れているみたいだがな。」
そして俺は……嘘を吐いた。
が居なくなってからの信長様は顕かに普通では無い。
安土を治める君主であるが故に無様に取り乱す様な事は無かったが、それでも表立たない所でを必死に捜していた。
当然俺達家臣にも密かにその命は伝わっている。
まさか俺がを拐ったとは思っていないだろう。
俺だって覚悟を決めて行った事だ。
簡単に露見させるつもりは無い。
だが……まるで一寸先も見えない暗闇の中を進んでいるのは間違い無いだろう。
が只の一度でも「政宗」と俺の名前を呼んで笑ってくれれば……
そうして一筋の光を与えてくれれば……
この暗闇を脱け出せる様な気がする。
俺の言葉に無反応であるは、俺の吐いた嘘には敏感に反応した。
「信長様……信長様……」
俺じゃない男の名前を呼びながら、俺の身体の下でぽろぽろと涙を零す。
絶えず溢れる涙を舌で舐め取り、俺はの耳元で囁いた。
「だから、。
俺だけを見ろよ。」