第8章 横恋慕【イケメン幕末】
「さん、俺は本当に嬉しい。」
「ああ、俺もだ。」
そして口々に喜びを伝えてくれる山崎さんと斎藤さん。
嬉しいのは私の方だ。
こんなにも祝福されるなんて思っていなかったから。
これ迄は只の知人であったこの人達が家族になってくれた気がして、私が降って沸いた様な幸福を噛み締めていると……
「…此処に居るのか?」
遂には近藤さんまでが台所に入って来た。
私を探していたらしい近藤さんは、四人に囲まれた私を目にすると
「お前達、何をしている!」
慌てて守る様に私の身体を抱えた。
その様子に沖田さんが吹き出す。
「いやだなぁ……近藤さん。
何もしてませんよ。
誰もさんには指一本触れてませんから。」
胸の前で両手を拡げて見せる沖田さん。
土方さんも斎藤さんも、山崎さんまで笑いを噛み殺しているみたい。
「む……そうか。
それなら良いんだが……」
恥ずかしそうに強がる近藤さんが余りにも可愛らしくて、私もくすりと笑ってしまった。
「俺達は只、に礼を言っていただけだ。
こんなに面倒臭い近藤さんと新選組を
引き受けてくれてありがとう……ってな。」
にやりと笑って言った土方さんに、近藤さんも「そうか、そうか」と満足気に頷く。
自分を『面倒臭い』と言われた事を全く気にもしていない近藤さんが愛おしくて堪らない。
こういう人だから……この人を好きになって本当に良かった。
近藤さんに抱えられたままその顔をそっと見上げると、嬉しそうに細められた目が私を見ていてくれた。
「あーあ……どうやらお邪魔みたいですね。
では、俺達はさっさと退散しましょうか。」
沖田さんの号令で、四人はにやにやしながら台所を出て行く。
そしてまた土方さんは台所を出る間際に振り返って言った。
「近藤さん、今日は早目に戻って来いよ。
主役が何時までも広間に居ないんじゃ白けちまうからな。」