第2章 徒桜【るろうに剣心】
帰る場所……待っていてくれる人……か。
そんな物があれば、俺の生き様も変わっていたかもしれんな。
大政奉還、江戸城の無血開城……その結果俺達、隠密御庭番衆は戦う場所も自分達の存在価値も全てを奪われた。
慶喜公が決断したそれらの出来事は、国力の疲弊を防ぐ為の高度な政治判断だったのだと理解はしている。
だが隠密として生きてきた俺達には、光輝く新時代明治は眩し過ぎた。
光が強ければ強い程、出来る影は黒い。
その黒い影の中で非業の死を遂げた仲間達に『最強』という華を捧げる為、俺は幕末最強の人斬りと謳われた抜刀斎を倒すべく全てを掛けてここまで来た。
………それももう、終わりだ。
俺はこの先どうすれば良い?
『最強』の華も捧げられ無いまま、俺を最期まで御頭と慕ってくれた仲間達の元にも逝けない。
抜刀斎に敗れた今、生きて行く理由も失った。
生きる事も、死ぬ事も……俺には叶わないのか。
俺に生きて帰って欲しいと望む人……
抜刀斎の言葉が俺の心に楔のように突き刺さっている。
どれだけ考えを巡らせても、思い付くのはただ一人。
………たった一人。
疾うの昔に失ったあの女だけだ。