第2章 徒桜【るろうに剣心】
「…また『紙一重』でござったな。」
「随分と分厚い…紙一重だ……。」
俺は敗けた。
あれ程望んでいた緋村抜刀斎との決着は、俺の敗北という形で着けられた。
「立てるか?」
仰向けに倒れたままの俺を心配そうに見下ろす抜刀斎が聞いて来る。
「…暫くは無理だな。
痛みを通り越して身体中の感覚が完全に麻痺している。」
「……………。」
「だが、頭だけははっきりしている。
……妙に晴れた気分だ。」
「……そうか。」
俺の言葉に抜刀斎は安心したように微笑んだ。
「すまないが拙者はもう行く。
志々雄真実を倒して…帰らねばならぬ場所がある。」
「やはり抜刀斎が最強だったか……。
満身創痍で直ぐ次の闘いに挑むなど、俺には出来ない芸当だ。」
つい先刻、刀を交え死闘を繰り広げた俺に向かって、抜刀斎はまるで旧くからの友人に向けるような屈託の無い笑顔で言った。
「そんな事は無いでござるよ。
ただ拙者には帰りを待ってくれている人が居る。
その人の元へ帰る為、決して倒れる訳にはいかないのでござる。」
「待ってくれている人……か。」
「…………お前にも居るのではござらんか?
お前に生きて帰って欲しいと望んでいる人が。」
「…………………。」
否定も肯定もしない俺に、抜刀斎は何かを感じたようだ。
「では……拙者は行くでござるよ。」
「行け。
直に俺も駆け付ける。」