第8章 横恋慕【イケメン幕末】
近藤さんと二人きりになったものの、気不味い空気が漂ってしまう。
何かを話さなきゃ……そう思っても言葉が出て来ない。
ひたすらその雰囲気に耐え続けて居ると、近藤さんがぽつりと呟いた。
「自惚れても良いのだろうか?」
「え……?」
「がとしでは無く俺を選んでくれたと……
自惚れても良いか?」
「近藤さん……」
近藤さんは膝を着いたまま、じりっと私に近付いて来る。
「やはりを泣かせてしまったのは俺なのだろうな。
良い相手は居ないのか……とか、
無理にとしとの関係を促す様な事を言った。
それがを泣かせたのだろう?」
「それは………」
その通りだけど『そうです』なんて言えない。
どう答えれば良いのか迷ってしまい、自分の膝の上で両手をぎゅっと握り締める。
すると突然近藤さんの両手がその拳をそっと包んでくれた。
「あれは本音では無い。」
その行為と言葉に私の全身が熱を上げた。
「にはとしの様な男が似合いだと思っているのは本当だ。
只、本音を言って仕舞うとをとしには渡したく無い。
だが、大の大人がこんなみっともない……
まるで嫉妬の様な感情を抱く事自体が情けなくて
ついあんな事を言ってしまった。
許してくれ。」
「いいえ。
いいえ………近藤さん。」
私は近藤さんの目を見つめて何度も首を振る。
「総司に言われたのだ。
本当に欲しい物はちゃんと欲しいと言わなければ駄目だと。
俺が欲しいのは……お前だ。」
そう言ってくれた近藤さんの目は、どこまでも優しい光を湛えていた。