第8章 横恋慕【イケメン幕末】
「どういうつもりだ、それは?」
土方さんの低い声が響く。
「としには申し訳無いが、俺としてもは譲れない。
頼む、とし。
引いてくれ。
と話をさせてくれ。」
畳に額を擦り付ける程に頭を下げる近藤さん。
そんな近藤さんに直ぐにでも縋り付いてしまいたい。
「近藤さんがそこまで言うなら……
けど、決めるのは俺じゃねえ。」
振り向いた土方さんが私の目を射抜き、そして問う。
「…お前はどうしたいんだ?」
聞かれるまでもない。
私の心はずっと近藤さんに奪われたままだったから。
今、こんな近藤さんを見せられてどうして嫌だと言えるの?
「ごめんなさい、土方さん。
私は近藤さんとお話したいです。」
また私の瞳からはぽろぽろと涙が溢れ出したけれど、もう拭いもせず土方さんを真っ直ぐに見つめた。
暫くの沈黙の後、土方さんの表情がふっと和らぎ、
「お前がそう言うんじゃ仕方ねえな。
邪魔者はさっさと退散するに限る。」
そう言って立ち上がったと思ったら、そのままするりと近藤さんの横をすり抜ける。
「とし。」
頭を上げた近藤さんが呼び止めても土方さんは立ち止まらなかった。
そして部屋を出て行く間際、
「ああ、近藤さん。
今夜は屯所に戻って来なくて良いからな。
俺が上手い事やっておく。」
何時もの様ににやりと笑ってその姿を消した。
「全く、世話が焼ける。
……………少しばかり残念だったがな。」