第8章 横恋慕【イケメン幕末】
結局私はまた土方さんに送られて四季へ戻った。
土方さんは何も聞かなかったけれど、何時まで経っても涙が止まらない私を心配して部屋まで着いて来てくれた。
「大丈夫か?」
「はい。
ご迷惑をお掛けして申し訳ありません。」
漸く私も少し落ち着いて答える。
こんな醜態を晒してしまって、もう近藤さんには会えないよ。
きっと変な女だと思われたよね。
もう……近藤さんの事は忘れた方が良いのかな。
そんな事を考えながら呆けて座り込む私の前に土方さんも腰を下ろす。
「迷惑なんかじゃねえ。」
そう言った土方さんの手が唐突に私の顎を掬い上げた。
「………土方さん?」
驚いて土方さんを見つめると、その目は何故か焦れた様な色を浮かべている。
「迷惑なんて思ってねえから。
だからお前はもっと俺に甘えろ。」
どういう事……?
気付いたら私の涙は止まっていて、土方さんの綺麗な顔から目が離せない。
「本当は弱い癖に何時も強がりやがって、全く。
そんなお前は放っておけねえんだよ。」
優しく囁かれて、私の鼓動がどくどくと高鳴る。
「土方…さん……」
沈黙に耐えられず名前を呼ぶと、まだ濡れている私の頬を土方さんの親指がゆっくりと這い回った。
「……俺じゃ駄目か?」
もう………良いのかな?
このまま土方さんに甘えてしまっても良いのかな。
そうした方が近藤さんだって喜んでくれるのかも。
近藤さんを想う事がこんなに辛いならもう忘れてしまいたい。
そして私は土方さんに身を委ねてしまおうとそっと目を閉じる。
ゆっくりと土方さんの吐息が近付いて来るのを感じ、そして二つの唇が重なり合う瞬間、ぱしんっ…と大きな音を発てて部屋の襖が開け放たれた。