第7章 Phantom pain~幻肢痛~【薄桜鬼】
そこはごうごうと不気味な音を発てて燃えていた。
元々が安普請の簡素な建物だ。
一旦火が着いて仕舞えば一気に拡がってしまうのも当然だった。
「……っ!」
俺はその燃え盛る炎の中に飛び込もうとしたが、天霧に力強く押し留められてしまう。
「風間、もう無理です。」
「離せ、天霧!
あの中にはまだが……」
「風間!」
俺の両肩をぎりぎりと掴む天霧の顔にも苦渋の色が滲んでいる。
どうして……
どうして俺は気付かなかった。
兄を殺した奴等がだけを見逃す筈が無いではないか。
あの血塗れの兄の姿を見た時に、直ぐ様を救いに向かうべきだったのだ。
……火を着けられた事に気が付いて、外に逃げ出してはいないか?
その辺りの物陰から俺の名を呼んで戻って来てはくれないか?
………そう考えながらも、それは絶望的な期待であると俺は分かっていた。
は泥の様に熟睡していたのだ。
俺が身勝手に激しく抱いたから。
俺があんなにも泣かせてしまったから。