第7章 Phantom pain~幻肢痛~【薄桜鬼】
「まだ喰っていないのか?」
聞き覚えの無い男の声で目を覚ました。
「そんな事……出来ない。」
続けて聞こえて来たのはの涙声。
建物の外でと男が会話しているようだ。
この声の男がの言う兄なのであろう。
が血の匂いをさせて帰って来た日の深夜。
俺が熟睡していると思っているのか?
まあ、建物の外で話していれば聞こえないだろうな……普通の人間ならば。
だが俺の耳には二人の会話は筒抜けだ。
「あんな夜中に山中を彷徨いていた男だ。
行方知れずになった所で遭難したと思われるだけで済む。
だからお前の為に連れて来たんだぞ。」
「私は望んで無い。」
「生きる為だ!
お前が集落を襲うのは嫌だと言うから俺は……」
「兄さん、もう人を襲うのは止めて。」
「俺達がどれだけ彼奴らに虐げられて来たか…
お前だって忘れた訳では無いだろう。」
「だからって……やっぱり私は……」
「もう良い!
お前が喰わないと言うなら俺が……」
「お前が俺を喰う……だと?」
突然現れた俺にと男は心底驚いたようだ。
「千景様……起きていたのですか?」
「ああ……
余りに愉快な話に我慢出来なくてな。
出て来てしまった。」
気不味そうに俺を見つめるとは対称的に、男は敵意を剥き出しにした視線を向けている。
その闇で鋭く光る眼、人間にしては異常に発達した犬歯。
漸く俺は一つの答えに辿り着いた。
「………人狼か。」