第7章 Phantom pain~幻肢痛~【薄桜鬼】
俺の申し出を女は受け入れた。
只、快くでは無かったが。
迷惑だとか煩わしいとかそう言った印象では無く、何故か俺をこの場所に置いておくのが不安そうな様子だった。
しかし、それがまた俺の好奇心を煽ったのは言うまでも無い。
「俺の名は風間千景だ。
お前の名も聞いても良いか?」
「私はと申します。」
「か。
……清らかで良い名だ。」
「風間様こそ。
何処か名の通った御家柄の御出身なのでしょうね。」
「千景で構わん。
家柄などこうして助けられた者には何の役にも立たぬわ。」
俺の言い種には可憐な笑顔を見せた。
とっくに左足首の痛みなど癒えていたが、俺はの世話になり続けた。
そうして過ごす内に幾つかの不可解な事柄に気付く。
先ずは食事を摂らない。
簡素な物ではあったが、俺の食事は三食用意するのに自分の分は作る気配すら無かった。
いや、摂っているのかも知れないが、少なくとも俺はが食物を口にしている所を一度も見ていない。
それから兄の存在。
は仕事に行っていると言葉を濁したが、あれから三昼夜経ってもその兄とやらは姿を現さないのだ。
俺を此処に運んだのは兄だとは言った。
見知らぬ男と妹を何日間も二人きりにしておくなど、通常有り得ないと思うのだが。
だが俺はそれらの事由をに問い質す事はしなかった。
甲斐甲斐しく俺の世話を焼いてくれると過ごす日々は存外に心地好かったのだ。