第4章 アナタ ト イキタイ【イケメン戦国】
「やはり俺は女を愛する事に向いていないようだな。」
腰を下ろした謙信様の膝の上に抱えられたさんは幼い子供のように身体を委ね眠っている。
そんなさんの髪を愛おしそうに撫でながら謙信様がもう一度呟いた。
「……随分と辛い思いをさせてしまった。」
その後はお互い無言のまま、静寂の中に謙信様の衣擦れの音だけが響く。
そしてその静寂を破ったのも謙信様だった。
「なあ、佐助。
忠心に勤めてくれたお前にも非道な事をしてしまったな。」
「………謙信様。」
「何を考えているか分からぬ腹黒い家臣共とは違い
俺はお前だけを心から信用している。
だからどうしても手離したく無くて
そんな所に閉じ込めてしまった……許せ。」
謙信様の口から紡がれる本音を初めて聞かされた俺の胸は、キリキリと音を発てて締め付けられるように痛んだ。
「こんな事をしておいて言えた義理でも無いが
お前に一つだけ頼みがある。」
「何でしょうか?」
「俺に何か有った時には、の事を頼みたい。」
さんの身体を擦りながらも、謙信様の目は真っ直ぐ俺に向けられていた。
「そんな事……言わないで下さい。
謙信様に限って……」
「まあ、聞け……佐助。」
俺の言葉を遮って、謙信様は微かに笑う。
「そう時を置かずして織田軍が此処に攻め入って来るだろう。
を取り返すという大義名分も在る事だしな。
勿論易々とを奪われる気は無いが……
何よりも俺はあの第六天魔王との戦いが
楽しみで仕方無いのだ。」
そう、これこそが軍神……上杉謙信。
俺が生涯を捧げても構わないとまで思わされた上杉謙信なんだ。