第10章 ボクゥ、キミ苦手やねん。/弱虫ペダル、御堂筋翔
「ちゃんと帰る。…ミドースジくんもちゃんと帰れる?…いや、ちょっと待って下さい」
「はぁ?ちょ…待たんよ、ボクゥ………て、何ィ?あー、運転手さんに話しかけたらあかんて。何処までも迷惑なコォやな」
「ミドースジくん!」
「キミィ。バスは公共の乗り物やで。時間厳守や。営業妨害したらあかん」
「自転車、載せていいそうです。今他のお客さんいないから。山の下までなら自転車大丈夫です」
「はぁ?」
「乗って下さい。自転車!」
「…ボクは自転車やないし、何なら自転車やないボクは乗ったらあかん勢いやな…」
「早く早く!公共の乗り物は時間厳守です。他愛ない規則をこそ遵守して規律を尊ぶのは日本人の得難い美徳でしょう」
「そんなん心底キミに言われたないわぁ」
「ならば私に言われたと思わなければよろしい。早く乗って」
「…ボクなぁ、キミ苦手や…」
「知ってるよ」
「あ…そ。ほぉん。知っとってもこんなんか。キミ心臓強いなぁ」
「強くても強くなくても強いように見せることは可能です。大丈夫です」
「はぁ」
「あ、自転車はこっち。私が支えます」
「倒したりしてこれ以上傷付けんでやぁ?あー、すんません。乗らせて貰いますぅ」
「運転手さん、このヒトがたまにバスを追い抜いていくムカつく高校生のヒトの正体です。よろしくお願いします」
「はぁ。そうなん?ムカつかれてたん?…いやぁ。それぇ、ボクも運転手さんも気まずいから言わんで欲しかったなぁ…」
「大丈夫!私もさっき聞いたばかりです。気にするな!平気だ!」
「そらキミは平気やろ…」
「うん。平気」
「……疲れたわぁ…」
「バス、乗れて良かったですね!」
「そっちの疲れやなくて…あぁ、もうええわ。こっち見んといて。真っ直ぐ前ェ見とき。鬱陶しぃてかなん」
「了解。心懸けます」
「……」
「……」
「……ちょお。ガラス越しにじろじろ見んといてくれる?それも厭やわ」
「外が暮れるとガラスが鏡になるのでつい…」
「キミはもう目ェつぶって立っとき。口もチャックや」
「了解」
「……」
「ミドースジくん」
「今度は何ィ!?口チャック了解言うたで、キミィ!」
「宿題頑張るから、今度ベロ出して走ってるとこ見せて下さいね」
「…いよいよ何言うてんの、キミィ。それ、誰に聞いたん?」