第9章 夕暮れ春風帰り道 /弱虫ペダル、御堂筋翔
「さっきっからキモキモ言ってるけど、何なのそれは?自己紹介ですか?」
「何でボクがキミなんかに自己紹介せんならんの。ボクはキミがキモチワルイ言うてんの」
「私がキモチワルイ?」
「ちゃうん?」
「違うのかって聞かれたら違うって言いますよ。そりゃ」
「ふーん。ほんでもキミ、キモいで?」
「何だ、コイツ」
「そらボクの台詞やぁ。失敬やなぁ、キミィ」
「………」
「………」
「あなた確かロードレース部のエースですよね?ミドースジくん?」
「はぁ、よぉご存知で」
「色々目立ってるから、あなた」
「色々って何?」
「色々は色々ですよ。イロイロ」
「気ィ悪ゥ」
「キィワルゥ?」
「キブンがワルい言うとんのや。そういうキミは隣のクラスの編入生やろ?地学部のチンチクリン」
「チンチクリン?」
「あぁ、気に障ぉた?名前知らんから」
「…チンチクリン…?あまり嬉しくない響き…」
「ボクはフィーリングを大事にするタイプやねん」
「…フィーリング…」
「キミィ、帰国子女ってヤツやろ?イタリアにおったんやってな」
「だから何?今度はスパゲッティとか言い出しますか?フィーリングがそう言ってるか?」
「変な女ぁ」
「変?私が?変?あなたが私に変という?stai scherzando?(冗談でしょ) 」
「急にイタリアぶらんでもええわ。キミィ、ジロって知ってるか?」
「…ジロの屋根に雪の降り積む?」
「…キミィ、ホンマに帰国子女なん?二三日イタリアで観光して来ただけちゃう?」
「そうそう、フィレンツェローマカタコンベ、イタリアさいこーう!て、何言わせるんですか!」
「ノリツッコミ?」
「ノリツッコミ」
「だだ滑りや。成る程帰国子女やな」
「いちいち言うことが厭な感じなのが凄いね、あなた」
「カタコンベ最高やら言うアホにそんなん言われる筋合いないで。墓荒しか、キミは」
「墓荒し?ちゃんとツアーがありますよ、カタコンベ。人気観光スポットですよ」
「キモッ」
「確かにあなたは行かない方がいいでしょう。あなたは見た目があまりにも観るより観られる側過ぎて、そのまま墓所に置いていかれそうです」
「…キミはどんだけボクを死体にしたいんや…」
「私もフィーリングを大事にするタイプなんですよ」