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お日様が照れば雨も降る。

第9章 夕暮れ春風帰り道 /弱虫ペダル、御堂筋翔



赤い夕日に照らされて、坂道に蚊蜻蛉みたいな影が延びる。
橙色の町並みを見渡す夕間暮れの坂は家路を急ぐ人がまばらに行き交い、髪は靡かせても服の裾を揺らす力のない幽かな風が柔やわと吹いている。

「まだ走れたんになぁ」

蚊蜻蛉がサドルを引いていた長い手で頭を掻いた。

「こんな早うに帰らんくなるなんて、キミのせいで損したわぁ」

「………」

「損したわぁ」

蚊蜻蛉の斜め後ろを歩いていた人影が足を止めた。中肉中背、これといって何の特徴もない真っ当な人影が、手にしていた鞄を振り上げる。

「…何?何で止まるん?はよ行こうや。日ぃ暮れてまう…ぅげッ」

立ち止まった人影を振り向いた蚊蜻蛉の鳩尾を鞄が思いきりよく強打した。蚊蜻蛉の長い体がくの字に曲がる。

「…ごへッ。…ちょ、キミィ、何するん?乱暴やなぁ」

「何もかにもありますか!人に怪我させといて何なんだ、あなたは!」

「あなたぁ?うぇ、キモッ」

「うぇ?"あなた"は丁寧でしょう?丁寧じゃないですか!」

「別にぃ。キモッ」

「…ああそう。じゃあ今からあなたはオマエだ。オマエは人に怪我させといて態度がでかいぞ、悔い改めろ」

その怪我したらしい右足を上げて指差す人影を、蚊蜻蛉は一顧だにせず歩き出す。

「キミが勝手にぶつかって来たんやで」

その後をヒョコヒョコ歩きながら人影は肩を怒らせた。

「私は角を曲がっただけです。いいですか?出会い頭にロードバイクが凄い勢いで突っ込んで来るとは思いもよらず!普通に!道の端を!歩いてました!」

「あんなぁ。あんな山道、普通に歩くとこと違うやろ?山奥で何してたの、キミィ?死体でも埋めとったん?ぅうわ、こわっ」

「埋めて欲しいの?」

「はぁ?」

「いや、はぁじゃなく。埋めて欲しいの?」

「…何言うてんの」

「だって死体埋めたいって…」

「言うてないわ。中途半端に人の話聞いたらあかんよぉ?ボクはキミが山で死体を埋め…」

「埋まりたいの?」

「何でボクが埋まらなあかんのや。もしかしてキミ、アホか?やぁ、かなんわぁ。アホに拘わってもうたんか、ボクゥ?」

「だって死体が埋まりたいって…」

「…誰が死体や。引っ叩くで、キミィ」

「あなたに叩かれたら痛そうだ」

「アホか。ホンマに女の子ォ引っ叩くほどボクは落ちぶれとらん」

「おお。紳士だ」

「キモ」

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