第8章 麗しのハンナ/ハイキュー、天童覚
手荷物のポケットを探って、紙に包まれた小さな包みをぽーんと投げてよこす。
上手く胸元に飛び込んできた包みを受け取った俺を見て、桜庭さんは笑いながら長い腕を差し上げて手を振った。
「Danke schön.(ありがとう)
Werden Sie ein schöner Erwachsener.
(素敵な大人になるのよ)
Treffen wir uns wieder.
(また会いましょうね)」
「ありがとう?で?え?えぇ!?何!?何て?」
そんな言われてもわかんないよ。桜庭さん。俺、さっきの覚えんのでいっぱいいっぱいで、あとはイッヒリーベディッヒくらいしか……て、あー、日本語で言えば良かった!こんな返しは予想してない!
「今何て言ったの!?桜庭さん!」
「Ich mag dich auch.(私もあなたが好きよ)。天童くん。元気でね」
屈託ない笑顔で投げキッスをして、桜庭さんはもう一度手を振った。
そして、それきり振り向かずに行ってしまった。
あの癖のある、少し不自由そうな歩き方で。