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お日様が照れば雨も降る。

第8章 麗しのハンナ/ハイキュー、天童覚



でも心の汗はかけばかくだけ目が真っ赤になるワケで。
空港で桜庭さんの横顔を見つけたとき、俺はもう真っ赤っかな目になっちゃってたと思う。思うけど、そんなの、桜庭さんを見た途端吹っ飛んだ。待ち合いの椅子に腰掛けて、長い足を組んで、顎に荒れた力強い指を添えて、俯き加減に本を読んでる桜庭さんは絵みたいに見えた。
綺麗ってだけじゃない。格好いい。格好いいのに可愛くて、可愛いのに遠い大人の女の人。

俺の好きな人。俺が好きになった人。

足の速度が段々に落ちて、小走りが歩きになって、歩くのも途切れ途切れになって、ついには立ち止まる。遠くから眺める桜庭さんは、やっぱり凄く素敵だった。いっぱい人のいる広い場所で、俺の目はすぐに桜庭さんを探し当てる。あの人は俺の好きな人。特別な人。

止まった足がなかなか動かない。何時までも見てられる。桜庭さんの、シンプルで綺麗な輪郭。

ふと、桜庭さんが誰かに呼ばれたみたいに顔を上げた。
誰か見送りが来てる?思わずあてもなく辺りを見回してそれから視線を戻したら、真っ直ぐこっちを見る桜庭さんの目にぶつかった。

「え…?何で…」

わかっちゃったのかな。俺、そんなにうるさいオーラ出してた?
桜庭さん桜庭さん桜庭さんって?

「……はは。…出してたかもネ…」

立ち上がってこっちに歩き出した桜庭さんに向かって、俺の足がまた動き出す。

俺のこと見て、俺に向かって、ちょっと笑って歩いて来る桜庭さんは、今この瞬間だけは俺のことだけ考えてる俺だけの桜庭さんだ。
自然に両手が伸びた。あ、バカ。何やってんの、俺!

「目が赤いね。夜更かしした?」

桜庭さんは可笑しそうに笑いながら、俺の伸ばした両手を自分の両手で捕まえてくれた。がさついた長い指が俺の指に絡む。それを強く握り返して、俺は笑った。
だって両手が塞がっちゃってるから赤い目を隠せないしサ。抱き締めるつもりだったのに、俺と桜庭さんは下手なダンスでも踊ってるみたいにお互い長い腕を伸ばした先で手を繋ぎあってるしサ。何より桜庭さんが笑ってるしネ。それだけで自然に笑えちゃうんだよ。

「まだ風邪がひどいの?ちゃんと学校に行かなきゃ駄目じゃない」

前よりずっと親しげな話し方。

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