第8章 麗しのハンナ/ハイキュー、天童覚
へえ。皮剥いちゃうんだ。面白いな。ソーセージって皮が旨いモンだと思ってたヨ。シャウエッセンとか、パリッとかプリッとかが売りじゃない。…大丈夫、このソーセージ?
剥いた身はふわふわやけに柔らかい。切り分けて口に入れる。
「……はんぺん…?」
「ぶ…ッ、あはは、言うと思った!」
無防備に笑った桜庭さんに目が眩んだ。チッカチカする。
「…ねえ。ドイツ行ってこれ食べて、はんぺんみたいって言っても、一緒に笑ってくれる人なんていないと思うヨ。寂しくないデスか?」
いきなりな上にネガティブ、"ダメでしょ、そんなコト言っちゃ"を、つい言ってしまう。
「それならはんぺんを作って食べて貰うわ」
あっさり答える桜庭さん。
「魚と卵の白身があれば出来ちゃうでしょ、はんぺん」
「マジで!?そんなモンなの?」
「はんぺんミキサーにかけて玉子混ぜて焼いたら伊達巻きになるし」
「伊達巻き?ホントに?」
そっかー。笹谷や茂庭、二口や青根ははんぺんと玉子から出来てたんだネ。あんなゴツい連中がそんなに旨いモンだとは思わなかったヨ。
「ドイツのお年越してどんなの?紅白なんてないよネ」
「紅白はないでしょうねぇ…」
「除夜の鐘は?」
「ないんじゃないかしら」
「年越し蕎麦」
「天童くん、私はドイツに行くの。日本じゃなく」
桜庭さんは真顔で言って、キャベツと煮込んだ塊肉をパクンと頬張った。豪快。
「日本にあるものが皆揃ってたらおかしいでしょ」
フォークでカレー粉と赤いソースのかかったソーセージを指して、
「カリーブルスト、美味しいわよ。ドイツじゃ有名な軽食なんだけど」
むぐむぐキャベツと煮込み肉を咀嚼している桜庭さんは、意外に肉食系らしい。
「紅白や除夜の鐘がなくても、食べ物が合うから取り敢えず安心よね。ああ、でもやっぱり白米は食べたくなるだろうな。…実は今もご飯が欲しくて仕方ないの。呑んでるから控えるけど」
後半、内緒話をするように身を乗り出して声を潜めた桜庭さんの笑顏が可愛くて仕方ない。
あー、困った。ホントに好きだ。どんどん好き。
多分俺今逆上せてるんだナ。普通じゃないンだ。
一緒に居る程桜庭さんを好きになる。居なくなっちゃう人なのに、わかってるのに止まんない。
好きだ。スキ。
好き。
ヤバい。
触りたい。くっつきたい。この人が欲しい。