第8章 麗しのハンナ/ハイキュー、天童覚
「ランチはパスタとハッシュドビーフとカレーもあるんだけど、私のお勧めはハンバーグで…」
「ハンバーグ大好きデス」
「…ホントに何でも大好きなのね」
ハイ。中でも特に桜庭さんが大好きデス。
ウェイトレスさんがお冷とカトラリーを持って来た。
どんな関係?みたいな目でこっちを見てるから、ニヤッと笑ってやったら、おって感じで顎を引いてから、グッと親指立ててウィンクされた。
あらま。照れちゃうじゃない。
「桜庭さんはよく来るの、ここ」
ドイツったらドイツみたいな小物が並ぶごちゃっとして居心地のいい穴蔵みたいな店内を見回して聞くと、お冷を呑んでた桜庭さんはグラスを置いて首を振った。
「よく来る訳じゃないわ。月に一回くらい。後は特別なときね」
あ、ナルホドね。明日にはドイツだもんネ。今日は特別なんだ。そゆコトか。はは。は…。はぁ。
「風邪はすっかり大丈夫そうね?」
運ばれて来たハーフボトルの白ワインをサーブされながら、桜庭さんは目を細めた。
まぁネ。元から風邪じゃないからダイジョブですヨ。ーとは言えないデショ。
「ここ、あったかいから」
だから何ヨって自分に突っ込みつつ言うと、桜庭さんは肩をすくめて白目の取り皿を渡してくれた。
「ありがとうゴザイマス」
「どういたしまして」
白いソーセージとクチャクチャの千切りキャベツ、トマトのサラダがランチセットのスープとサラダと一緒にテーブルに並べられる。
白いソーセージ?何コレ…
「…生?」
「ぶ…ッ、あはは、生な訳ないでしょ」
桜庭さんが弾けるみたいに笑った。慌ててワイングラスを置くと、右手で口を覆い、左手でお腹を押さえて、肩を震わせてる。
「…桜庭さーん?笑い過ぎじゃない?」
「だって、生のソーセージが出て来る店って面白くない?ふ…あははは」
「意外に笑い上戸なんだネ」
「天童くんが変な事言うからでしょう。全く…」
桜庭さんは息をついて、ナイフとフォークを手にとった。
「これはヴァイスブルスト。朝作ったら午前中には食べちゃわなきゃいけないって言われてるソーセージよ」
自分の取り皿に白いソーセージをのっけて、桜庭さんはそれへ縦に切り目を入れた。ナイフとフォークで器用に皮を剥くと、中身を切り分けて口に運ぶ。
「こうして食べるの。試してみて」