第8章 麗しのハンナ/ハイキュー、天童覚
「父のレディファーストは母に厭がられてたわね。自立心の強い甘え下手な人だったからって父は言うけど」
桜庭さんは俺に悪戯っぽい笑顔を向けた。
「私は父がやり過ぎたんだろうなと思うのよ。だから、天童くんも程々にした方がいいわよ。厭がられてしまう場合もあるんだから」
「桜庭さんはイヤ?」
「そうねえ…。厭とか厭じゃないとか言う前に、父を思い出して笑ってしまうから駄目かな。レディファーストを受ける資格がないのね。笑っちゃったら失礼でしょう」
「俺はイヤじゃないケド。笑われても。ちゃんと理由を言ってくれるならネ」
「ムッとしちゃって理由を言わせてくれない人もいるのよ。やる方も気負ってるからくじけちゃうのかな。私はこの足のせいで気を使われがちなの。だから余計気が咎めるけど、これはもう直らないわね」
言いながら、桜庭さんはメニューに目を落とした。
「天童くんは?何にする?」
「何が美味しいんデスか、ここ」
「何でも美味しいわよ。私には」
この言い方。…好きだなァ…。
「じゃ、桜庭さんのオススメでお願いしマス」
「シェアするのに抵抗はない?」
桜庭さんとシェア!?何言っちゃってんの!?そんなアナタ…
「全ッ然テイコーありません。シェア大好き。シェアサイコー」
「そう?じゃ適当に頼むわね。好き嫌いは?」
「全くありません!何でも大好きデス!」
元気良く答えたら、桜庭さんはまた笑った。手を上げてウェイトレスさんを呼んで、メニューを指差す。
「カリーブルストとヴァイスブルスト、ポークとキャベツの煮込みにザワークラウト。後はランチのハンバーグをひとつとクーベーアー·トロッケンのハーフボトル。グラスはひとつ」
おっと。なかなか呑んで食べるのネ。いーじゃんいーじゃん。オイシイもの好きなヒトは大好きだ。
パタンとメニューを閉じた桜庭さんが、首を傾げる様に下から俺を覗き込んだ。ななななな、何?何デスか?ちょっとやめてヨ、可愛いンですケド!?
「ランチにコーヒーが付くから飲み物はそれでいいかしらね」
「構いません。コーヒー大好きデス」
いつもはそうでもないケド今はホントに大好きだよ。…正直言ったら桜庭さんが頼んだハーフボトルとかってのに興味津々デスが、ボクはコーコーセイなんで黙ってマス。一応。