第8章 麗しのハンナ/ハイキュー、天童覚
「あはは。ソレ、すごーくいいけど、でもドイツでやれる事ないから。俺」
貴女と違って。
言いかけて呑み込んだらメチャクチャ寂しくなった。
バレーボールじゃなくて挽き肉に打ち込んでれば良かったのかな。ソーセージの全国大会目指せば良かった?いやいやいや、流石にそりゃないわ。変だから。ソーセージの春高とか、誰が応援に来んのヨ。俺なら行くケド。大体ゲスマイスターなんか需要ないデショ、ソーセージ。
あ、サッカー!おお、サッカーだヨ、ブンデスリーガ!良くない?ゲームに使う手が足になるだけじゃん。手が足になるだけ!…いや、覚、ソレ大問題。手と足は違うからネ。全然違う。皆違って皆良いくらい違う。ちょっと落ち着こうか。ホラ、深呼吸。
…何考えてんの、俺?
「天童くん?大丈夫?」
声をかけられてハッと見たら、桜庭さんの心配そうの度合いが二三倍くらいに跳ね上がってた。マズい。これじゃ一緒にご飯どころかまた近所の公園に誘導されかねない。
俺、何か凄く緊張してるっぽいンだけど、気のせい?緊張って、こういう感じじゃない?うっわ、ヤだネー。試合のたんびにこんなンなってたら、身体が動かなくなっちゃう。みんなスゴイわ。ココロがツヨイ。
てかサ。折角桜庭さんと一緒にいンのに、何でこんなしょーもないコト考えてちゃってんの俺?
いや、だって、桜庭さんのコトばっか考えてたら、頭おかしくなりそうなんだヨ。
頭に心臓があるみたいに思考がブレる。思うまま動いたら、俺は多分この路上で、この人を抱き締めてしまう。
「…天童くん?」
心配そうな声が少し優しくなってて、いよいよ頭が湧いて来た。仮病じゃないんじゃないかって思い出してんのかな。
ごめんネ、桜庭さん。素っ気ない貴女の優しい声が嬉しいボクは、そんな貴女の優しさも利用してしまう。
「大丈夫、何か食べたらよくなりマス」
白々しいケドお腹減ってんのはホントだしネ。貴女とご飯が食べたいんだ。
何が好き?どんな食べ方すンの?箸の使い方、上手そうだよネ。それともナイフとフォークとかの方が使い易いヒト?コーヒー紅茶、どっち派かナ。ドイツだけにまさかのビールとか?貴女と食べたら、なんだって美味しいだろうナ。
考えたら楽しくなって来て、俺はにやけちゃったんだと思う。桜庭さんが笑った。
「大した風邪じゃなさそうね」
咳払い。