第8章 麗しのハンナ/ハイキュー、天童覚
陶器の絵付け。職人仕事。ハイゼセラミックス。マイヤー·ハントヴェルカー。
マイスター桜庭。
ドイツ。プロイセン公国。彼女の中にあるもうひとつの国。早くに亡くなった彼女のお母さんの国。
自宅の細やかな工房で陶器を作っていたムッター(お母さん)桜庭。小さな桜庭さんはそんなムッターを見て育って来たんだ。
ムッターったらもう、何かもっと違うコトしてくれてたら良かったなー。有田焼?瀬戸焼?ヤーパンシュティール(日本式)じゃダメだった?魯山人とかはお嫌い?加藤唐九郎とかじゃダメだった?泣いちゃうヨ、俺。オカーサン。
桜庭さんの香りはハーブの匂い。
セロリみたいな、甘くて苦くて爽やかな、フェンヒェル。こっちだと茴香ってヤツね。
多分、彼女はこれをよく使ってるんだ。料理か、お茶か、もしかしたらポープアリーか。あ、コレ、ポプリのコト。あっちじゃこう呼ぶんだヨ。勉強したのヨ、頑張っちゃった、俺。ね。
貴女が知りたい。物足りない。
やっぱコレ、会いに行かなきゃダメだなぁ。
監督に言われるまで気付かなかったけど、やってるコトうっすらストーカーの下準備だし。
いや!断じてないケドね!ないヨ!
大体もし全身全霊でストーカーしちゃおうと思ったって、桜庭さんは居なくなっちゃうワケでサ。金もパスポートもないのに付け回そうたってどうすんのサ。泳げってか?…泳ぐ…うん?そっか。泳ぐか。その手もあるよネ。取り敢えず九州行って、そっから韓半島まで泳いで、いよいよ大陸横断…。ヒッチハイクかな。ヒッチハイクだな。それで桜庭さんとこまで何日かかる?
うーん…。
…て、うーんじゃないヨ!何プランニングし始めちゃってんの、俺!止め止め止め止め!何ヶ国密入国する気だっての。インターポールに捕まるわ。銭形のとっつぁんがでるわ。いやぁ、捕まえんなら桜庭さんにしてくんないかナ。ボクの大事なモノを盗んでっちゃうのはあの人です。
はあ。遠い。ドイツは遠いヨ、桜庭さん。
気軽にストーカー出来るヤツはいいよねえ。いい気なモンだヨ。アハハハハーだ。
あ、痛い痛い。イヤだイヤだ。
今日は火曜日、あと三日。
よし決めた。
明日から俺は風邪を引く。
夏風邪の類いだネ。バカが引くモンだからしょーがない。
二日だけ、二日だけ見逃してヨ。
一大事なんだ。ホントにサ。