第1章 あったかいんだから/一松
同じ学校だったなら、兄弟に聞けばヒヨの事がわかるかも知れない。
そうは思っても、一松は兄弟にヒヨの話をしたくなかった。
・・・・いやぜってェ言わねえ。何かヤだ。何かっていうか拷問されてもヤだ。・・・・拷問・・・されるのも悪くないか?・・・・・・悪くないな・・・・・いやむしろして下さい。
「おい一松。何笑ってんの、怖いよお前」
おそ松に声をかけられて、一松はにやっとした。
「・・・そう?笑ってた?」
「うん。笑ってたよ~。何かいい事あった?」
隣で鼻歌を歌っていた十四松も、あは~っと笑いながら一松を下から掬い上げるように覗き込んできた。
その仕種に昨日のヒヨを思い出して一松はダッと立ち上がった。
「あーーーーーッ!!!!!」
「な、何、一松にいさん!びっくりするじゃない」
読んでいた漫画を取り落として目を瞬かせたトド松を横目に、一松は頭を掻きむしった。
「あ"ーーーーーッ!!!!!」
「どうしたんだ。何かあったのか?俺で良ければ相談のるぜ?話してみろよ、マイブラザー」
手鏡から目を上げて髪を掻き上げたカラ松に一松が詰め寄る。
「うるせえ黙れクソ松。死ねよ消えろよ口縫い合わすぞクソバカ松。生まれてきてすいませんっつってセリヌンティウスに土下座しろ人間失格斜陽キリギリスアホバカ松。走んなメロスで皇帝に首チョンパされて教科書に載れクソバカキザゲロ松」
「な、何だ?そこまで言われる何を俺がした?そんな目で見るなよ、ブラザァぅわッ」
「あ"ーーーーーーーー!!!!!!」
一松はカラ松をドカンと突き飛ばして部屋を飛び出した。一気に階段を駆け下りてツッカケに足を突っ込み、つんのめるように家を出て走り出す。
走って走って気付いたらあの公園にいた。
ヒヨなんかいる訳ない。まだ四時前だ。いつもヒヨと行き合うのは六時過ぎから七時くらい。時間が早すぎる。
顔見知りのネコが、肩を上下させて荒い息を上げる一松にすり寄って来た。
ハアハア言いながら屈み込んで撫でてやると、喉からゴロゴロ満足そうな音を立てる。
「ネコ・・・」
フワッフワの毛を撫でているに、何か寒い。今日は春らしい天気でこのネコからもひなたぼっこの匂いがする。
・・・・・寒いな。
「おやー?今日は早いじゃん、一松~ッと!」