第8章 麗しのハンナ/ハイキュー、天童覚
「…もう一度聞くぞ、天童。何でいきなり俺をハタいた?」
怖い顔で獅音が睨んで来る。
「あー、ごめんネー。何回聞かれてもネ、答えは一緒なんだけど、何かサ、居ても立ってもいられなくなっちゃったの。そしたらそこに獅音がいたっていうかサ。ねー、何なんだろ。不思議だネー」
ホントね。ビックリしたよ。ハタいた俺がビックリしたんだからハタかれた獅音なんかもっとビックリだよネ。
それにしてもアカギのチョコアイスって、マジ安くて旨い。何本でもイケそうでヤバイヤバイ。ヤバイったらヤバイ。
獅音が顎を引いてカツサンドといろはすの入った袋をガサつかせた。コレ、俺の奢り。ハタいちゃったお詫びね。
「…悪いと思ってないなら謝る事ないんだぞ?」
あらま。カツサンドがきいちゃった?悪いと思わないじゃないけど、自分でも訳わかんないから謝り辛いんだよネ。水に流してくれちゃう?
「あはー、そう?じゃ、さっきのなしってコトで…ぁだッ」
振りかぶった袋に背中をバフッと叩かれた。いろはす痛いョ、いろはす500ml。
「お前たちはいつもコンビニで騒いでいるのか」
コンビニのちっちゃい羊羹を齧りながら、若利くんが物申して来た。
獅音と俺は揃って若利くんを見た。
何をヒトゴトみたいに言っちゃってんの、若利くん。
「牛若は桜庭さんと知り合いか」
おっと。獅音、ソレ俺の台詞。
若利くんは眉間にシワを寄せて考え込んでる。
「知り合いと言えるかどうか」
「あン?知り合いだから挨拶すんじゃないの?若利くんは知り合いじゃないヒトの引っ越し事情にまで詳しい訳?町内の生き字引き?その若さで?」
「町内の生き字引はうちの二軒隣の中津川さんだ。俺ではない」
「そうなんだ?じゃ、中津川さんによろしくネ」
「お前を中津川さんによろしくしてどうする?うちの町内に引っ越す気か」
「アレ、それ悪くないネー。若利くんちに下宿しちゃおっかな」
「俺は公私の別は大事にしたいタイプだ」
「ええー、俺って若利くんの公の部分なのー?私じゃないのォ?」
「……部活の部分だろうな」
若利くんの答えに獅音が真顔で頷く。
「ごもっとも」
まぁ確かにごもっともだけどさ。
食べ終わったアイスの棒をひょいとゴミ箱に投げ入れて、もっと何か言ってやろうとしたら、息が止まった。