第8章 麗しのハンナ/ハイキュー、天童覚
「捻っても同じだよー?てか、ハードル上がってるみたいよ?ハッシュドビーフ、コンビニにあるかなぁ。いや、まぁハヤシもレトルトくらいしかないけどサ」
「ない?」
「んー、ここんとこあんま見ないかな?」
「何で俺を騙す、天童。見損なったぞ」
「いやいやいや、落ち着いて話を始めから思い出してみようか。全然騙してないからね、俺」
しょうもないやり取りをしながら、あー、俺、若利くんに桜庭さんを見て欲しいんだなぁと気付く。
若利くんがあの人を見たら、どう思うのか知りたいみたい。しかも、凄く。
「たまには付き合えよ、牛島」
隣で着替えてた獅音が笑いながら加勢してくれた。
「そんな難しく考えて行く場所じゃないぞ、コンビニは。欲しいモンがなけりゃ何も買わなくていんだしさ」
「それは店に悪いだろう」
またまた真面目ーに言う若利くんに、俺はハイハイと手を上げて迫った。
「ダイジョブ。少なくても俺は絶対アイス買うし、獅音は…まぁ最悪サバ味噌缶か何か買うからサ」
「ちょっと待て天童…何で俺がサバ味噌缶なんか買わなきゃないんだ」
獅音がしょっぱい顔をして口をへの字にする。あらら、嫌だった?
「好きでしょ、サバ味噌」
「だからってコンビニで缶詰買ってどうするんだよ。勝手な事言うな」
「割り箸貰って食べたらいいじゃん」
「何だそれ。そこまでサバ味噌に飢えてる訳じゃないぞ」
「なら明日のおベントのおかずにしたら?」
「どんどん勝手な事言いやがって…好きなモン買わせろよ。サバ味噌じゃなくたって何かんか買うんだから」
「そぉ?だってヨ、若利くん。だから安心して一緒に行こうヨ。寄り道楽しいよー?」
真顔で考え込む若利くんを引っ張って、結局三人でいつものコンビニへ行った。
今日も空は雨模様、でも桜庭さんと話したせいか、周りの草や木が綺麗に見えたりして、俺も案外単純だよねー。
植物特有の深い青臭さが湿気に乗って充満してる。いわゆる森林浴みたいな感じ?こういうの?よくわかんないけど息がしやすくて、呼吸してるだけで体にいい事してる気になる。
「走り梅雨だ」
コンビニの自動ドアが開くのを横目に、傘を畳んで傘立てに差した若利くんがポツリと呟いた。
「走り梅雨?何ソレ」
聞き返したら若利くんがちょっと笑った。あらま、珍しいネ。
「今頃の雨の事だ。俺は嫌いじゃない」