第7章 減らず口/干柿鬼鮫
「つまり魚という事ですか」
「そうなりますね」
「………」
「………」
「あなた、死にた…」
「私は正直に思った事を言っただけです。干柿さんを見習って」
「私は正直でも構いませんが、あなたが正直なのは頂けませんね。貝になりなさい」
「いやいや、貝ですよ、元から私は。急に日本語が不自由になられましたね?言ってる事がサッパリわかりません」
「それはあなたの耳が急に不自由になったんですよ」
「ああ、道理で何にも聞こえない訳だ。はあ、成る程。私に話しかけないで下さいよ。もう何にも聞こえませんからね。何ならあっちに行って下さって一向に構いませんよ?いや、構わないってか、むしろあっち行って下さい。是非」
「あなたが行けばいいでしょう。何で私があなたに指図されて動かなきゃないんです?そもそもそんな事があり得るとでも思ってるんですか。馬鹿ですねえ…」
「…ホンットああ言えばこう言う…。お母さん情けなくなって来た。そんなコに育てた覚えはないよ、もう!」
「…私だってあなたにそんな事言われる覚えもなければあなたに育てられた覚えもありませんよ。詰まんない事言いますねえ…」
「私だって魚を産んだ覚えなんかありませんよ。哺乳類ですからね、私は」
「ほう?で、私は卵胎生という訳ですか?」
「…確かに鮫は卵胎生ですが、私はそこまで言ってませんからね?先に言っておきますがね、ご自分の発言に逆上して私に当たるのは止めて下さいよ」
「誰が鮫なんです?」
「だからご自分で……アレ?」
「私は言ってませんよ、鮫だなんて一言も」
「……引っ掛けましたね?卑怯な小細工を…」
「ひとりでペラペラ勝手に喋っておいてその言い草は何ですか。不愉快な」
「不愉快なのはこっちですよ。もう何の言いがかりですか。私の体の事なんか放っといて下さいよ。私の胸が薄いからと言ってあなたが胸を痛める必要はありません。育ち過ぎた自分の体の心配でもしてりゃいんですよ。まさかまだ伸びちゃないでしょうね、その馬鹿げて高い背丈は」
「三十も過ぎたらそんな事流石にありませんよ」
「良かったですね。それ以上悪目立ちしたらロクに表も歩けません」
「余計なお世話です」
「そりゃこっちの台詞ですよ」
「あなたの世話なんかやいてませんが?」
「私だって貴方の世話などやいちゃいません」