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お日様が照れば雨も降る。

第7章 減らず口/干柿鬼鮫


「……」

「……」

暫し睨み合ってから、二人は互いに椅子へかけなおした。

女が燐寸を擦って煙草に火を着ける。白い煙が部屋に棚引いた。

欠伸をしながら開いた本に視線を落とした女をじっと見ていた鬼鮫がやおら立ち上がる。それに気付いた女は胡乱げに鬼鮫を目で追った。

「昨日も遅くまで本を読んでいたでしょう。そろそろ目を休めたらどうです」

「…何ですか、何を企んでるんですか?デカい体で上から覗かないで下さいよ。陽当りがいっきに悪くなるじゃないですか。なお目に悪い……」

バンと鬼鮫の手が卓を叩く。

ひょいと女が灰皿と湯呑みを持ち上げる。

これがほぼ同時。

「失礼。名残りの蚊がいたもので」

「…ええ、そうですね、確かにいましたね、蚊が。はい」

やけに素直に頷くと、女はフッと肩の力を抜いた。咥えていた煙草を揉み消して立ち上がる。

「その蚊は多分あなたの癇性の虫でしょう。困った蚊ですね」

そう言って、鬼鮫の正面に向き合って笑う目が風にそよぐ柳の葉。

「おさまりが付くまで今度は私がお付き合いしますよ」

細い腕が背中にまわり、煙草の匂いごと女は鬼鮫の胸に身を預けた。

「本を読むにも少し疲れましたし。ひと休みしていいですか?」

「…成る程。いいでしょう。ゆっくり休んで下さい。今度は私の好きにさせて貰いますから」

女を横ざまに抱き上げて鬼鮫は口角を上げた。部屋の向こうにある寝台までただの二歩で行き着くと、女をおろしてその黒い目を見下す。
柳の形に笑う目が、親しげに鬼鮫を見上げる。

「ゆっくり休める?本当に?」

「さあ。悪いようにはしませんがね」

黒地に紅い雲の飛ぶ外套を脱いで鬼鮫は目を細めた。

「ゆっくり出来るかどうかは、保証の限りじゃないかも知れませんねえ…」










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