第1章 あったかいんだから/一松
「アタター!痛いトコついて来んね、一松!アタシ今プーのニートだからさ、バリッバリに暇なの。一松が遊んでくれて嬉しいよ!」
「別に遊んでないし。俺はネコと遊んでるんだよ。アンタとじゃなくさ」
・・・へえ。プーでニートねえ・・・
チラッとネコから目線を移して見ると、ヒヨは朗らかに笑っている。
・・・・バカじゃねえの。コイツ。何笑ってんだか・・・・
「いいよ、いいよ。ネコのついでに遊んでくれてアリガト。にひひ」
「俺なんかにお礼言う事ないよ。大体アンタの事、全然思い出せないし。ホントに同じ学校だった?騙してない?何か企んでんの?」
「ありゃ。何か企まれたいの?困ったね。じゃ、次までに何か企んどくよ!」
「・・・・何言ってんの。次なんかないかも知んないじゃん。約束して会ってる訳でもないのに」
ポロッと言ってから、一松はハッとしてカッと赤くなった。
「んん?」
覗き込んできたヒヨから目を反らして、ネコを闇雲に撫で回す。
これじゃ約束したいみたいじゃないか?そう思われたか?次を期待してるみたいに聞こえた?いや、違うから。期待なんかしてない。次なんかない。約束なんか要らない。何にも要らない。ガッカリされたりうんざりされるのはイヤだ。要らないんだよ。無くなったり壊れたりするものなんか全然要らない。
「・・・もうあっち行けよ。うるさいんだよアンタ」
「またまた照れちゃって」
ヒヨが、ネコを撫でる一松の手をきゅっと握りしめた。
・・・・あぁー・・・あったかい・・・・
ヒヨのぽよっとした綺麗に爪を切った清潔そうな手は、ちょっと荒れてガサついていたけれど、柔らかくてあったかかった。
一松はカチンと固まって、額から汗をツゥと流した。
ヤバいから。止めて、こういうの・・・・
「また明日ね!バイバイ、一松!」
フリーズした一松の手を離して、ヒヨはパッと立ち上がった。
魚の匂いを慕ってヒヨにまとわりついていたネコたちがニャオニャオ鳴いている。
・・・・ホントに魚くせえ・・・
駆け去るヒヨの後ろ姿を見送りながら、一松はポケットに手を突っ込んで背中を丸めた。
ヒヨの美味しそうな残り香を嗅ぎながら、ポケットの中で手を握りしめる。
・・・・寒いな・・・