第1章 あったかいんだから/一松
「ねえねえ一松、今日はさ、ウチんち晩御飯魚だったんだよ!凄いのさ、おばあちゃんが、七輪ての?何か変なの持ち出してさ、外でボーボー魚焼いてんの!そばで見てたらアタシまで魚臭くなっちゃったよ!いい匂いするしょ?お腹空いてない?どうだ!アタシを食べたくなったか!」
ヒヨは今日も元気がいい。
一松の邪魔をしに来るのも今日で五度目、毎度しょーもないマシンガントークを炸裂させて来る。
なーんにも考えてない様子で肩に手を置いたり頭を撫でにかかったり、間近に顔を寄せてきたりする脳みそがヒヨコ並みのヒヨは、自分が六つ子と同じ小中だったと言うが、一松は考えても考えても思い出せない。
・・・いたか?・・・・こんなヤツ。
今もやっと長くなってきた初春の陽の名残で薄あったかいブランコの鎖を握りしめて、子供みたいに体を揺らしているヒヨを気付かれないように横目でじィっと眺めているが、何一つ思い出されない。
キツネ色に焼けたトーストにバターとハチミツを塗ったみたいなフワッフワの髪は、多分染めてるから記憶を動かすきっかけにはならない。
けれど小学校で成長が止まったような身長や地色なんだろう少し小麦色かかった肌、化粧気もないのに桃色でいつも口角の上がっている唇や濃い焦げ茶色の瞳はなかなか忘れようがないんじゃないかと思う。
早口で語尾がちょっとかすれるしゃべり方、そして、
「にゃははッ、一松、また難しい顔して何か考えてんな!考え事好きだね、ホント。ネコと考え事どっちが好き?較べられない?そうだよねえ、較べられないよね!にゃはッ」
この変な笑い方・・・
こんなの九年も同じ学校にいたら絶対目に入らない訳ない。言ったら軽く殺意を覚える鬱陶しさだ。
可愛いくない事もないような気もするけど・・・
・・・・・・可愛いけど。
誰?コイツ?
ヒヨの顔を真っ直ぐ見れない一松は、今日もネコを撫でながら横目で彼女を盗み見るだけ。
「・・・アンタさあ・・・」
「ん?何何?どした?何でも言って!何でも聞いちゃうよ!」
「・・・・いいよ別に。・・・僕の言う事なんか適当に聞いてれば・・・・・」
「何言ってんのさ!全力で聞いちゃうよ!」
「アンタそんな暇なの?いい歳した女がこんなとこで何やってんの?他にやる事あるでしょ?」