第5章 送り梅雨/ハイキュー、青根高伸
青根は大股でどんどん歩く。
必死で歩いていたから、もしかしてこんな歩幅で歩いたら太田さんが辛いんじゃないかと気付いたのは、振りだした雨に鼻の頭を打たれてハッとした時だった。
「ご・・・ごめん。大丈夫?」
慌てて振り返ると、息も切らさず厭な顔もせず、むしろ不思議そうに見返して来る太田さんが居た。
あ。
青根は手を放して、太田さんと向き合った。
・・・・この人は、俺が普通に歩いても、隣を歩いてくれる人だ。
ポツポツ降りだした雨が、ザアッと勢いを増した。
太田さんの薄墨色の制服が雨粒にみるみる黒く染まるのを見て、青根は再び彼女の手をとった。
細くて優しい手を引いて、すぐ側にあったバス停の待ち合い小屋に入る。
中のガタガタいうベンチに並んで腰かけると、雨の音が更に激しくなった。
「・・・もしかして」
ポツンと、可愛い人の声。
「もしかして、恥ずかしいんじゃないかって思って連れてきてくれた?」
うん。
「ありがと」
違うんだ。そればっかりじゃないんだ。
前を向いたまま青根はない眉を八の字にする。
可愛くて、他の連中から隠したかったんだ。だから、お礼なんか要らないんだ。
スポーツバックを探って潰れてしまったお握りを取り出す。ひとつ太田さんに渡して、もうひとつのアルミを剥く。
海苔の匂いと甘い海の匂いがして、睨んでくるかと思ってたお握りが笑ってるみたいな気がした。
隣で太田さんもカサカサお握りを開いてる。
並んでお握りを食べて土砂降りの表を眺めていたら、カッと稲光が走って凄い音がした。
「・・・!」
太田さんの小さい悲鳴も掻き消されるような凄い音。
近い。何処かに落ちたかな。ここらは山があるから、木に落ちたか。ここに入っておいて良かった・・・・な・・・・?
右手があったかい。お握りを持ってない方の手。太田さん側の手。
見なくてもわかった。
太田さんが俺の手を握ってる。
「・・・・落ちたかな・・・?」
ちょっと声が上ずってる。怖いんだ。
青根は手を反して、太田さんの手をしっかり握った。
大丈夫。これは梅雨明けの雷。すぐに止むから。