第5章 送り梅雨/ハイキュー、青根高伸
「良かったら、見に来る?」
振り返った太田さんが、青根を見て、青根に言った。
「・・・・・・」
青根の心臓がキャッと言って、キュンと縮んだ。
く、苦しい。
青根は思わずスポーツバックに添えた手をグッと握り締めてしまった。
「あ・・・・」
声が出た。
お握りが潰れた。
「・・・・・・・」
太田さんに食べて欲しかったお握り・・・
馬鹿だな、俺。浮かれすぎだ。大会見に来てなんて、誰にだって言う。勿論それでも凄く嬉しいけど、嬉しいからって食べ物を粗末にしちゃいけない。
いや、後でちゃんと食べるけど、お握りだって太田さんに食べて欲しかったろう。そう思って握ったんだから、こいつらもがっかりしてる気がする。アルミを剥いたらお握りに睨まれそうだ。
情けない顔でバックに視線を俯けた青根を、太田さんが訝しんだ。足を止めて、心配そうに青根の側に寄る。
「都合悪い?部活忙しいかな?・・・あの、ごめんね。そんな困った顔しないで?」
「あ・・・いや、ちが・・・」
バックから手を放したら、海苔の匂いがプンと鼻をくすぐった。
あ・・・・
太田さんの目がスポルディングに向く。
二口と小原と南部さんの目も。
耳が熱くなった。多分顔が赤くなってる。青根はわたわたと手を振って、手振りで言い訳した。
いや、違うんだ、これは・・・・
「お握り」
うん、そう。お握り・・・じゃなくて!あの、別に変な意味がある訳じゃなくて、ただちょっと、・・・・ちょっと太田さんの喜ぶ顔が見たくて握って来ただけなんだ・・・・・
・・・もしかして変なのか?そういうの。
小原と南部さんが目配せしているのが目の隅に映った。
ああ、やっぱり変なんだ・・・
あれ、でも、俺が握ったなんてわかる訳ないんじゃないか?考えすぎたか。考えすぎたな。普通にしてればいいんだ。しゃんとし・・・・
「また頑張って来ちゃったんだな、青根。毎日偉いよ、お前」
「・・・・・・・・」
バレてる!やっぱりバレてる!
二口のいやにしみじみした口調が反って青根を焦らせる。
「弁当男子じゃなくお握り男子な。・・・何か、お前らしくていいな。お握りマン」
「・・・・・・!!!」