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お日様が照れば雨も降る。

第5章 送り梅雨/ハイキュー、青根高伸


手持ちのお握りが五個から七個に増えた梅雨明けも近い七月の頭。

毎日、ではないけれど、太田さんに会う事があるから、その時のために青根はこっそり毎朝二個お握りを握る。

隣の家のばあちゃんに言えば、すぐに握ってくれるんだろうけれど、うまく理由が説明出来ない気がして自分で握る事にした。理由が言えない事は頼めない。言わなくてもニコニコ引き受けてくれるばあちゃんだから尚更。

図書館での一件以来、何故か太田さんとちょこちょこ顔を合わせるようになった。
二口に誘われて行く先に太田さんと友達の南部さんがいる。

太田さんは南部さんが言っていたようによく跳ねる。それが高くて速くてすんなり綺麗だから、どうしても見惚れてしまう。

ときどき目が合うと、エクボを見せてにっこりする。その顔を見ていると、体のあちこちがギュッとなったり、フワッとなったりして忙しい。

笑ってる顔だけじゃない。

黙って真面目に考え事をしてる顔も、真っ直ぐな背中も、字が汚いところも、漂って来る夕方の匂いからよそのうちの夕飯の献立を当てる食いしん坊なところも・・・・可愛いなあと思う。
思うけれども、あんまり可愛いと思うのは失礼なのかもしれないと、ときどき心配になる。

太田さんはスッと立ち姿が凛々しい綺麗な人だ。
藍色の菖蒲の花のような人だから、可愛いなんて思うのは違うのかも。

「ん、この匂いは魚を煮る匂いだね。鰈?鰈?あまじょっぱい良い匂いするよー。お腹減るね!山盛りご飯食べたくなるなあ。はー」

何でこんなに可愛いんだろう・・・

「煮魚だったら断然鮭派だな、俺。冷めてもウマイじゃん?お握りの具にしてもウマイよね?」

二口が意味ありげに青根を見てにんまり笑う。青根はそれをじっと見返して、スポルディングのスポーツバックの膨らみをそっと押さえた。
お握りがそこでじっと出番を待っている。

「夏休みは部活?」

不意に南部さんに声をかけられて、青根は慌てて頷いた。

「だよね。うちらもそう。日与子は大会だしね」

・・・大会。太田さんも出るのかな。出るな、きっと。

「そう。張り切ってるよー」

スキップするような足取りで雨が降りだしそうな湿った空気を掻き回し、太田さんが青根の前に出た。
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