第12章 ワズキャン ーメイドインアビスー
何の話って、君も懲りないねー。僕の言うことなんて適当に流してくれていいんだってば。真面目だなー。融通効かないほう?違う?
はは!いいねいいね!いいと思うよ!他の人の話を聞くときはその感じでね!
でも僕の話はそんな風に聞かなくていいよ。聞く価値のある話なんか今はしてないからね。
ふぅん…。聞く価値のある話かぁ…。
そんな話、もう随分してないなー。そもそもしたことあったかな。はははー。
ま、だからさ。諦めの悪い負け惜しみの戯言だと思って聞いてくれたらいいからね。実際そうなんだから。あはは。
とにかくね。その穴の底には誰も行ったことがないんだ。
あー、うん、待って待って。訂正しとこう。行った人がいたとしても、帰って来た人はいない。こっちがいいかな?
怖いでしょ?怖いよねー。
まあそういう場所なわけでね、その穴の底は。
どんなとこかなんて、考えるだけ無駄でしょ。行かなきゃわかんないんだし、行ったら戻って来れないし。知りたきゃ行くしかないんだよ。知ったら終わり。戻って来れない。
辿り着いたその後は悪夢みたいな蛇足か、もしかしたら次のクライマックスの幕開けかも知れない。よくわかんないんだよね。見えるけど見えない。
でもね。
わかりかけたような気がして盛り上がったり、やっぱり全然わからないってがっくりしたりとかしてもね。
どうしようもなくワクワクしちゃうんだよねー。止まりたくないんだ。例え待っているのが絶望や呪いだとしても、この先を、先の先を見たくて仕方ないのさ。始末に負えないったらないよなー。あはは。
…大体さ。
そもそもアビスに底なんてある?
終着点なんてさ。要らないかもね。
それでもよくないか?
終わりなんかないんだ。この道程に終わりはない。
ないんだよ。要らないんだ。いえーい。
酸っぱい葡萄ってヤツかな、これ?