第4章 花菖蒲のようなヒト/ハイキュー、青根高伸
昼は弁当。
今日はおばあちゃんの握ったバカでかいキャラブキと味噌ワカメのお握り五個と、母さんのキンピラに玉子焼き。新玉ねぎの小さな掻揚げと北寄貝の甘辛い煮付けは二口がそれこそ二口で平らげてしまった。
「鬼だ。鬼がいる。青根のじい様仕様の弁当のささやかなおかずを奪うなんて、二口お前ひどすぎだろ」
タコさんウインナーをそっと青根の弁当箱に滑り込ませながら、小原が二口に顔をしかめる。
「んー?だって旨いんだよ、青根の弁当。旨いモンは分け合わないとさぁ。チームワークって大事だよね?」
売店の焼きそばパンの袋をバリッと開けながら、二口がにやりと答えた。小原はふーんと鼻を鳴らして
「・・・そう言うお前はチームのために何をワークしてる訳?見たことない気がすんだけどな」
「俺って靴屋の小人さんだからさ。人知れずワークしてんだよ」
「そんだけデカイ小人は進撃の巨人のエサになるべきだな。食って貰え、お前。クキャッて噛み砕いて貰え」
「やだね。食うのは好きだけど食われんのは嫌いなんだよ、俺」
「いっぺん食われてみれば?好きになるかもよ」
「小原が試してみて良さそうなら教えてよ」
「イヤだ」
「俺だってヤだよ」
楽しい。
二人のやり取りを聞きながら、青根はソフトボールサイズのお握りをあっさり食べ終えた。
残りの二個は部活のとき食べる。
じいちゃんが海で採ってくるワカメはホントに旨い。二口がお握りを持っていかなくて良かった。ばあちゃんのキャラブキの佃煮も最強だ。
「あれ、青根。お前、今日は部活休みだぞ」
「忘れたい気持ちはわかるけどね。明日から中間だろ?試験休みじゃん」
いつも部活の為にお握りを二個食べ残す青根を知っている二人が、丁寧に包み直された大きな弁当を見て口々に言った。
青根は目を瞬かせて二人とお握りを見比べる。
マズイ。
本当に忘れていた。