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お日様が照れば雨も降る。

第2章 南風はどこだろう/ムーミンパパ


「南風?」

ちびりとリンゴ酒を嘗めて、ヘムレンさんが訝しげな顔をする。

「そりゃあちょっと早過ぎやしないかい?ムーミンパパ?」

「ふむ。でも春が来れば南風が吹くまであっという間でしょう?」

カサカサと油紙を開いてつやつやした美味しそうなニシンに目を細めながら、ムーミンパパはゴニョゴニョと言った。

まだ夢の事が気になっているようだ。

そうとは知らないヘムレンさんは首を傾げてまた訝しむ。

「だからその春もまだ来てないのに乾杯したら勿体なくないかね?南風が吹いたらそのときまたお祝いをしたらいいのに」

「うーん・・・」

立ち上がり、熱くなったフライパンにニシンの身を落として、ジュワッと脂の弾ける景気いい音に聞き惚れながらムーミンパパは歯切れ悪く唸った。

「・・・実はついさっきまで夢をみていまして・・・・」

「ほうほう」

ヘムレンさんはリンゴ酒をちみちみ呑みながら律儀に相槌を打ってくれる。

「私はスナフキンと話してるんですが、彼の帽子の色が気になって仕様がないんですな。実際目の前にいるときは、そんなに気にした事もないのに、何故か非常に気になる。あの緑はどういう緑なのかと考えている訳です」

「どんな緑たってパパ、緑は緑でしょう?」

「いやいや、ヘムレンさん、あなただからこう言いますがね、植物という植物の中にひとつとして同じ色をしたものがありますか?」

「そんなモンありゃせんよ。何を言ってるんだね、パパ。・・・あ・・・・そういう事か」

「うん。そういう事なんです。あ、ヘムレンさん、皿を出して下さい。ナイフとフォークも引き出しの奥に何本か転がってた気がするな・・・」

「バラバラだけどかまわんかね?」

「何の何の、反って楽しいじゃないですか」

「ふふ、いいね」

食料部屋に海の身の香ばしい匂いがいっぱいにひろがって、二人は鼻をひくひくさせながら不揃いのナイフとフォークを手にニシンの前に座り直した。
甘酸っぱいコケモモジャムをたっぷりすくってまだ脂をシュワシュワさせているニシンの身にトロリとかけ、切り分けたパンにのせて先ずは一口。

熱々で塩辛くて柔らかいニシンのこってりした身に、コケモモジャムの甘酸っぱさがキュウときいて、頬っぺたがツンとなる美味しさ。

「うぅまいッ!」

「はあ、美味しいねえ・・・。格別だよ、パパ!」


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