第2章 南風はどこだろう/ムーミンパパ
「そりゃあ良かったですね。おさみし山まで薪を取りに行くんじゃあんまりだ。まあおいでなさい、ヘムレンさん。居間に火を起こしますよ。ここはムーミンが寝てますからね」
口に指を当てて言うと、ヘムレンさんも口に指を当ててウンウンと頷いた。
二人は足音を忍ばせて一階へ降りた。
一階は暗いけれど三階、二階より温かく、パパは蝋燭をテーブルに置くと暖炉を覆った古毛布を剥ぎ取りながら、暖炉脇の薪置きを見た。
「おや、あんまりないな・・・ちょっと待って下さい、ヘムレンさん。今地下から薪を持って来ますから・・・」
「いやムーミンパパ、思うに火を起こすなら地下の方が温かいんじゃないかな?あそこは狭いし、土の中だし、通気もちゃんとしてるし、ほら、リンゴ酒もあるし、ずいぶん居心地いいと思うんだけど・・・」
「何とヘムレンさん!それは素晴らしい思い付きです。行きましょう!」
「私もお弁当にと色々持って来たから、真冬のパーティーといきましょう」
「ますますもって素晴らしい!流石はヘムレンさんだ」
「ハハハ、起きててくれたのがムーミンパパで良かった。何だか楽しくなってきました」
「私もですよ」
地下の食料部屋は思った通り温かく、ママがときどき湿気を飛ばすために小さな暖炉へ火を入れているせいで、乾いた芳ばしい匂いがした。
パパとヘムレンさんは顔を見合わせて頷き合うと、早速暖炉に薪をくべ出した。
「ふう、いやホント助かった」
背負っていた大きなリュックをテーブルの上に下ろして、ヘムレンさんはトントンと肩を叩いた。
「またずいぶん大荷物ですねえ」
厚手で小ぶりのグラスを2つにデカンターを棚から引っ張り出してパパが可笑しそうに笑う。
「何とも心配性のヘムレンさんらしい」
「お恥ずかしい。しかしこの雪に私の足じゃ何日かかるか知れないと思いましてね。あるだけの食べ物を持って来てしまった。それに、途中水浴び小屋を通りがかったら、ほら、お土産ですよ」
リュックの天辺から小さな鉢植えと茶色の油紙の包みを取り出して、ヘムレンさんはニッコリした。
樽からデカンターに移した金色のリンゴ酒をテーブルに置いて、パパはヘムレンさんのお土産を覗き込んだ。