第2章 南風はどこだろう/ムーミンパパ
そんなの、誰だってそうだよな。
そっとドアを開けて覗き込むと、期待に反してムーミンは毛布の小山になってぐっすり眠っていた。
がっかりしたのと寒いのとお腹が空いたので、パパは内心ぼやきだした。
私だって、家族がいなければ旅に出ているさ。色んなものを見たいし、知りたいよ。でも私はここにいて、家族を守る義務がある。立派な物語を書いて家族を養っていかなくちゃならないんだ。
その立派な物語を書くのに行き詰まって、冬の訪れを告げるパーティーでツンとした松葉を頬張りながら、少なくとも春まで何も書かなくてすむのにホッとした事は誰にも内緒だ。
「・・・おほん」
ムーミンパパは小さく咳払いしてムーミンの様子を伺いながら、窓辺の蝋燭に火を点けた。
どこまでも知らない国を渡り歩いて、皆がビックリするような経験をするんだ。
ゆらめく蝋燭の火を眺めながら、パパはぼんやり物思いに耽る。
大鷹の背に乗って世界一高い山の天辺から、誰も見たことのない花を摘もう。海の底へ行って虹色にまた七つの色を足した煌めく吸盤を持つ烏賊の群れを探しだそう。不思議な事しか言わない不思議な人達の住む国へ行って、彼らを不思議がらせるような話をしてやろう。絶対実の生らないリンゴの木の下で、百日でも歌って金色の実を結ばせてやろう。二目と見られないような不気味な幽霊と・・・・・
コンコンコン
「おおッ」
不意に誰かが窓を鳴らして、ムーミンパパは尻尾の先をボッと毛羽立たせた。
蝋燭を手におそるおそる目を向けると、見慣れた、でも冬眠していたせいでちょっとだけ懐かしく感じる顔が窓からこちらを覗き込んでいた。
「何だ、ヘムレンさん。ビックリさせないで下さいよ」
寝入っているムーミンを気にしながらコトコトと窓を開けると、キンとした冷たい外気と一緒に古い付き合いの年寄りヘムルがよっこらしょと中に入り込んできた。
「はー、やれやれ。助かったよパパ。この雪深いのにうっかり目が覚めちゃって、一人で標本の整理をしたり本を読んだりしてたんだが、薪がなくなってしまってね。こりゃあおさみし山まで行かにゃならんかと思って渋々出て来たら、ムーミン屋敷に灯りが見えるじゃないか。やあ、有り難い、有り難い」