第1章 さいしょ
ガチャリ
これは、トビラを開ける音だ。
何度も聞いてる。いつから聞いてたのかは数えるのを放棄したけど。
ぼす
視線を上にずらす。
肌色。
水色の水玉模様のインナー。
それに合わせるように水色の縦縞模様のスラックス。
そして、その巨体に見合った白衣。
その手にはトレー。
「おはよう、体調はどうダス?」
おはよう。これは朝の挨拶だ。
つぶらな瞳、優しげにゆるく曲線を描く口元。
この人は、名前・・・名前は、何と言ったか。
いつもいつも飽きもせずに逐一様子を見に来る相手の名前を考える。
微動だにしない自分をいつものように心配そうに見つめ、そしていつものように持っていたトレーをことりと控えめな音を立てて自分の目線上にあるローテーブルに置く。
動く気配も無い自分の為に、わざわざ普通のローテーブルの支え四本を切ってまで置いてくれた。
高さが低すぎて、テーブルと言うよりも台と言えばしっくりくるだろうか。
どすん
これは彼が座った音だ。
優しく微笑みながら話し始める。
僅かに見える、胸元にはPの文字。
ああ、思い出した。
彼の名前は、デカパンだ。
本名はもっと覚えにくい名前だったはず。
デカパン「今日のはシチューにしたダスよ。
久々に作ったからちょっと焦げたダスけど・・・焦げたのはぜーんぶイヤミが食べてくれたダス」