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観察日誌  リヴァイ・アッカーマン

第1章 観察日記




女がワインを飲み干すと、油のぎっしり詰まったような貴族の男が現れ、恍惚な表情で壇上の女の特徴を、ごてごてと飾られた言葉で紹介していく。
要約すると。

女は没落貴族の家柄で、容姿は完璧。
おまけに体が丈夫でもしもの時の用心棒にはもってこい。
従順で楚々。もちろん処女であるから、愛玩にするもよし。

…そう。
この女の競売だ。

単なる人身売買だった。

商品は何が起こったのか把握できないように、薬入りのワインを飲まされ、自らの意志とは関係なく金で身を売られていく。
買った奴がどんなにひどい奴だとしても、呆けている間に話は進む。

「吐き気がする、エルヴィン。俺は先に」

帰る。

と口を開きかけた時、真っ赤に染められた彼女の口がわずかに動いた。
気のせいだったかもしれないが、俺の動体視力がそれを見逃すわけはなかった。

『かみさま』

そう、動いた。

「銀貨5千から始めよう。」

男のねっとりした声にようやく現実に戻った。
半ば叫ぶような貴族どもの声。
中には膝で眠る自らのお人形すら蹴飛ばして立ち上がる者。
異様な熱気に呆気に取られる。

既に値は1万3千まで吊りあがっている。
俺の年収なんかとっくの昔に追い越している。

未だ微動だにせず、自分の行く先を考える思考すら停止しているように見える壇上の女。
わずかに震えているように見える唇。

俺は思わず、立ち上がっていた。

「2万だ。それ以上もそれ以下もない。俺が買う。」

2万?どこからそんな数字が出てきたんだ。

「ほぅ。初顔には勿体ない人形で、初顔が出す金額にしては少々大きいのではないかね?ん?」
「問題ない。寄こせ。」

俺はバカか。

「はっはっは。お若い彼に決まりだ。」

ひそひそと陰口を叩かれるのには慣れている。
ただそれ以上に、エルヴィンとピクシスの驚いた顔だけが無性に殴り飛ばしたかった。



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