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観察日誌  リヴァイ・アッカーマン

第1章 観察日記




貴族どもがお供として女や秀麗な優男を伴ってくる。
もちろん体面を保つための綺麗なお人形じゃない。

大広間に入れば、中央奥の一番目立つ所には、顔を紺色のベールで隠した細身の女が、豪奢なイスに微動だにせず座っている。

女の周りは床より高く、きっと後ろに階段があるのだろう。
おまけに周りは鉄の柵まであしらってあり、まるで見世物の猛獣扱いだ。

「見ろ、エルヴィン。貴族ってのは頭がおかしいんだな。」
「ハハハ。あれは今日の主役だ。どうだね、まるで本物の人形のようだろう。」

答えたのはピクシス。

「アレも、あぁなるのか?」

俺が視線を向けた先は、所狭しと並べられた長椅子で、お人形達に不思議な薬を嗅がせ眠らせている貴族ども。

そう。
この集会の趣向は、美しい人形を美しく寝かせただただ愛でるという夜会。

「アレは寝ない。あぁやって彼らを見下しているのが彼女の仕事だ。」
「…美しいものに包まれて、自らの地位を再確認しているようだな。まさに、貴族の遊びか。」

胸糞悪い。
当然、俺たちの立っている所にも、腕っ節の良さそうな貴族が一人、美しく寝ている少女を見せびらかしに来た。
陶器のような肌、匂い立つような唇。
男であれば、反応も示さずソレを見つめているのは少々辛いほど。

「ほら、次が始まる。」

貴族どもの視線が鉄格子のなかの女に注がれる。
彼女の座るイスの横に運ばれてきたのは、怪しげな色のワイン。

まるで血のよう。

微動だにしない女に、執事がかいがいしくベールを口元まで上げ、血の様なワインをなみなみと注がれたグラスを女の口元へと運び、少しずつ飲ませる。

「あぁ。……美しい!」

誰かがそう呟いたのが聞こえた。
否定はしない。

雪のように白い肌に、真っ赤な唇。
細い首には、青すぎるサファイアのチョーカー。
ここにいる女たちと違って、フリルがたっぷり施された燕尾服を纏っている。
女が燕尾服を着るなんてありえない。
だから、『人形』なのだろう。

すべてが美しく模造された人形のようだった。


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