第11章 -心配の無駄遣い-(月島明光)
「緊張っていうか…
まとまりなくただ話しちゃって…
後からああ言ってたら…とか、
こういう言い回しにすれば…とか、
周りの人に全然…
わたしの気持ち伝わってないなぁ…って。」
そこですみれはコーヒーを一口飲むが、
明光はまだことばを挟まず、
すみれの次のことばを待っていた。
「”タラレバ”を言い出したら
キリがないって…わかってるんだけどね。」
すみれは苦笑いしながら、話し続ける。
「他の人は皆堂々と話していて、
ことばもちゃんとまとまってるのに…
なんでわたしだけ…って。
周りに…どう思われただろう…とかね、
すごく不安になってきちゃって…」
すみれはそこまで話すと、
カップを持ったまま下を向いてしまったが、
明光はちょうどいいところに…といった具合に
すみれの項垂れた頭にぽんと手を置いた。
「明光…さん…?」
すみれが頭をあげようとすると、
明光はすみれの頭に手を乗せたまま、
すみれをじっと見つめた。
「すみれさ…」
ずっと黙っていた明光は、
口を開くと同時にコツンと
すみれのおでこを小突いた。
「えっ⁈イタッ…」
すみれがビックリして困惑していると、
明光はクスクス笑いながら、
今度は優しくすみれの頭を撫でた。
「すみれさ、考えすぎ‼︎
誰だってうまく話せないことあるよ?
それにことばは悪いかもしれないけどさ、
すみれが思ってるほど、
周りはすみれに注目してないよ?」
「それは…そう…だけど…」
すみれはまたシュンとしてしまうが、
その姿を見て、明光はすぐに
自分の意図が伝わってないと確信する。
「だーかーらー‼︎勘違いすんなって!
誰もすみれのこと嫌ってたりとか、
そういうんじゃないからさ。」
「え…?」
「うーん…なんていうかなぁ…
すみれにとってはたった1回の発言で、
そこに一番重点置いちまうかもしんねーけど、
周りの奴らは周りの奴らで、
自分の発言に対して心配してたりさ、
他の奴もたくさん話してたんだろ?」
「う…ん…」
「じゃあ、すみれは他の奴らの
一言一句全員の発言、覚えてるのか?」
「覚えて…ない…」