第10章 -雨のおくりもの-(黒尾/赤司)
「んー?コレかなぁ…」
「ムリですっ!」
「んじゃ、コッチ…」
「イヤですっ!」
カウンターの奥に広がる広い部屋の
クローゼットから、
あれでもないこれでもないと、
黒尾が次から次へと引っ張り出した服を
濡れた女にあてがうが、
女は全部却下していた。
「ワガママだなぁ…じゃあ…コレだ!」
「はぁ…黒尾さんのほうが、
何やってるんですか?」
なかなか部屋から
出てこない2人に
業を煮やした赤司が
部屋に入ってきた途端、
先ほどの黒尾よりも
大きいため息をついた。
黒尾が最初に出したのは、
ミニスカのウェイトレスの衣装、
次に出したのはミニスカメイド、
そして、最後に出したのは、
バニーガールの衣装だったから。
「女物の服、コレしかねぇんだもん。
ちょーどいーじゃん♪」
「よ…よくないですっ‼︎」
ニヤリと黒尾に見つめられ、
女は全身全霊で否定をした。
「コレに着替えて。
男物だけど、オレのだし、
裾捲ればいけると思うから。」
そう言って赤司が女に渡したのは、
自分の黒シャツとスウェットだった。
「あ‼︎赤司ずりぃっ‼︎
オレも最後にオレの服、
渡すつもりだったのにー。」
「最初からそうしないからですよ。」
「あ…あの‼︎」
黒尾と赤司の会話に
濡れた女が割り込んできた。
店に入ってから、
ほとんど喋っていない女の声に
2人は思わず反応して黙って見つめる。
「あの…なんで、こんなに…
親切にしてくださるんですか?」
「は⁈何がだよ?」
黒尾がポカンとして答えた。
「だって…さっき…そこで
ぶつかっちゃっただけなのに…」
「困っている女の人を
放っておけませんよ。
ただ…それだけです。」
赤司は女を安心させるように、
まだ拭ききれていない
女の額を拭った。
「そーそー。
ココはそんな店なの。
つぅか、捨て猫ちゃん、名前は?」
黒尾のことばに、
自分の名前を聞かれたと気づいた女は、
素直に名前を告げた。
「檜原…すみれです。」
「へぇ…すみれちゃん…か。」
「黒尾さん、話はそれくらいで。
オレらは一度部屋を出ましょう。
すみれ、ゆっくり
ココで着替えればいい。」
赤司がそう言うと、
2人は部屋を出て行った。