第7章 -仕事とドジと喧嘩とあなた-(東峰/菅原/澤村)

「えっ⁈」


「ちょっ…スガ⁈
なに檜原さん口説いてるの⁈」


すみれがビックリして
目を見開いて固まっていると、
ちょうど旭が戻ってきて、
慌てて菅原の横に行った。


「えっ⁈くど…⁈」


「口説いてたんじゃなくて、
ただの立候補♪
あ！明日の牛乳ないべ？
オレ、買ってくるわ。」


冷蔵庫を覗いた菅原は、
そう言うと旭と入れ替わりで、
店の裏口から出て行った。


「なんかすみません。
オレがバタバタした挙句、
菅原もふざけちゃって…。」


旭は困り顔ですみれに謝る。


「え⁈いえ。ぜんぜん大丈夫ですよ。」


「コーヒーも待たせちゃって…
今度こそ美味しいの淹れるんで！！」


旭は顔をパチンと叩いて気合を入れた。
その動きが大きな身体に似合わず、
可愛く見えたすみれは、
ついクスクス笑ってしまう。


「はい。
でも、いつも通りでいいですよ？」


「え⁈」


すみれのことばに旭はポカンとする。


「さっき菅原さんが言ってたんです。
旭さんの淹れるコーヒーは
すごく美味しいって。
だから、そんな気合い入れなくても、
いつも通りに淹れてくれるのが、
美味しいんだろうなって。」


「檜原さん…」


旭はジッと手元のコーヒー豆を見てから、もう一度すみれに向き直った。


「ありがとうございます。
じゃあ、いつも通り心を込めて、
コーヒー淹れますね！」


「お願いします。」


旭のことばに、
すみれも自然と笑顔がこぼれた。


旭は落ち着いた様子で
丁寧にコーヒーミルで豆を挽き、
あっという間にコーヒーのいい香りが
部屋中にただよってくる。


その様子を見たすみれは、
先ほど菅原に言われたコト、
そして、旭を見て、
自然に出てきた自分のことばに
自分自身もあるコトに気付かされる。


「(わたしも…いつも通りでいいんだ…)」


「お待たせしました。」


コトッとすみれの前に
旭はコーヒーカップを置く。


「うわぁ…いい香り…」


すみれは香りを楽しんでから、
コーヒーを口に運ぶ。


「美味しい…」


「よかったぁ。」