第7章 -仕事とドジと喧嘩とあなた-(東峰/菅原/澤村)
「旭〜!集中‼︎」
菅原が旭の背中をバシッと叩くと、
そんな強く叩かなくても〜と、
体に似合わないか細い声で
旭は小さな抗議をしていたが、
それは菅原の耳にもすみれの耳にも
届いていなかった。
「おわっ…」
「旭⁈」
旭は落としたコーヒー豆を捨てようと
くるりと後ろを向いた瞬間、
今度はゴミ箱をひっくり返した。
「大丈夫ですか?」
すみれもビックリして、
思わず立ち上がり、
カウンターの外から覗き込む。
「あぁ。大丈夫、大丈夫。」
「旭、昨日もそこでつまずいてたぞ?
それにコーヒー豆挽く時は、
こっちから行ったほうが効率いいって
昨日言ったべ?」
「(あれ…?)」
「そうだった。はぁ…ごめん〜。
ちょっと捨ててくる。」
旭はゴミをまとめ、
いったん店の外へ出て行った。
「言い過ぎたかな…」
「え?」
トボトボと出ていく旭を見た菅原は
ゴミ箱周りを片付けながら、
ボソッと呟いた。
「あ!ごめんね。」
「いえ…」
「旭の淹れるコーヒーって、
めちゃくちゃ美味しいんだよ。」
菅原はニッコリして話し出した。
「旭はさ、落ち着けばできるのに、
いつも緊張すると、さっきみたいに
ゴミ箱ひっくり返したり、
テンパっちゃうんだよね。」
「え…?」
菅原は苦笑いしながら、
すみれに話し続ける。
「店開ける前はいつも完璧だから、
もったいないなって思うと、
ちょっと悔しくて…。
つい言い過ぎちゃったな。」
そう言うと、菅原は
すみれにお水とクッキーを出した。
「あの…これ?」
「旭のコーヒーがくるまで、
コレでも食べて待ってて。
あ、もちろんコレはオレからだから♪」
「え?でも…」
「遠慮しなくていーのっ!
オレが檜原さんにあげたいんだから♪
ねっ?」
菅原はカウンターの中から
すみれの顔を覗き込み、
ニコッと微笑んで頭をポンとした。
「…っ⁈」
菅原の笑顔と動きに、
すみれは思わず赤くなってしまう。
「それに…」
「…?」
「甘いの食べたほうが、
少しは気が紛れて元気になるよ?」
「…っ⁈」
菅原は優しくすみれを見つめた。