第5章 -失恋特効薬-(岩泉/花巻)*
「えへへ…
喧嘩なら…よかったんですけどね。
フラれちゃったんです。」
「ふぅん…。おまえ、そいつのコト
好きじゃなかったのか?」
「え…?」
店員のことばに思わず
すみれの笑顔は固まってしまう。
「だって、おまえ笑ってんじゃん。」
「…っ⁈それは…」
「…泣いてねぇんだろ?」
「…っ⁈」
図星だった。
すみれは彼のことばを聞いてから、
1度も涙を流していなかった。
「泣くの…悔しいもん。」
「意地っ張りなんだな。」
何気無く言った店員のことばは、
すみれの心にグサリと刺さる。
よく彼に言われたことばだったから。
「そういうトコがダメなのかな。」
すみれは苦笑いをしながら、
店員を見上げる。
「失恋の特効薬やろうか?」
「え?」
店員はふわりとすみれの頭に
ハンカチを掛けた。
「泣けよ。見ねーから。
泣くのが1番の特効薬だ。」
店員はそのまますみれの頭を
ぐしゃぐしゃっと撫でる。
「ふぇ…うぅ…」
それが合図かのように、
すみれは声をあげて泣き始めた。